Episode23
 京都映画での監督稼業

    ──眠狂四郎 円月殺法
             その2

 

前号まで

 前号では1982年テレビ東京・歌舞伎座テレビ室制作、片岡孝夫主演「眠狂四郎 円月殺法」とはどういうドラマか?「円月殺法」とはどんな剣法か?などについて書いた。今号は私が演出した第2話について書いてみたい。

 

第2話から担当

私は「眠狂四郎 円月殺法」シリーズでは全19本中6本の監督を務めた。第1話(2時間スペシャル大洲斉監督)の江戸編は、インするまでは準備を手伝ったが、撮影現場には出ていない。私の担当回が第2話だったために、その準備で現場に出る時間がなかったのだ。

さて私が演出を担当した第2話だ。サブタイトルは「女体いけにえ無情剣 神奈川・横浜村」。あまり上品なタイトルではない。当時のテレビ東京が、こういう路線を売り物にしていたためだ。だが私にとっては、内容的にはけっこう思い入れのある作品だった。

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「眠狂四郎」ロケスナップ写真

  左端が眠狂四郎役の片岡孝夫、一人置いて右が筆者。

 

第2話ストーリー

第2話のストーリーはこうだ。江戸を出て東海道を西へ上る狂四郎(片岡孝夫)は、横浜村に差し掛かかる。当時の横浜は、神奈川宿傍の漁港に過ぎなかった。狂四郎はそこで宿を取る。後を付けてきたお目付け役のお蘭(松尾嘉代)も同宿する。狂四郎は一人の女と掛かり合う。お浜(氾文雀)だ。お浜は金に困った夫の丈吉(高峰圭二)に客を取るように強要されるが、我慢できずに逃げてしまう。丈吉は数人の地回りとともにお浜を追い詰める。そこに立ちはだかったのが狂四郎だった。狂四郎は地回り達を叩きのめし、丈吉の匕首を奪い取って手のひらを刺し貫く。絶叫を上げてのたうつ丈吉を見たお浜は、狂四郎に命乞いをする。「自分さえ亭主の言うことを聞けばいいんです」と。

一方、お蘭と雇われた巾着っ切りの金八(火野正平)は、新式銃の売り捌きを目論むオランダ商人ミケーレの存在、さらには新式銃を手に入れようとする浦賀奉行と薩摩藩の争いを察知していた。狂四郎を倒すために秘術を凝らしていた薩摩藩隼人隠密党に、家老調所笑左衛門から「新式銃を何としても手に入れよ」という密命が下される。

他方、「他の男に抱かれるのだけは嫌だ」というお浜に、丈吉は女心をくすぐる甘い言葉を囁く。その囁きに乗せられて、お浜は地元の貸元甚六の元へ下働きの奉公に上がることを承諾する。だが、下働きとは真っ赤な嘘で、お浜は甚六に力ずくで犯され、女郎屋で客を取る身に落とされる。丈吉が借金のカタに売ってしまったのだ。

隼人隠密党の頭領海老原蔵人(伊吹吾郎)と都田水心(岸辺シロー)は、ミケーレに早く新式銃を引き渡すように直談判する。だがミケーレは、「薩摩に売るのを辞めた」と言う。浦賀奉行との間で値を吊り上げようという魂胆だ。

体を売る境遇に堪えられなくなったお浜は、女郎屋を逃げ出す。家に戻ると、丈吉が他の女を連れ込んでいた。「お前さん、あんまりじゃないか!」。そういうお浜を「貸元の処へ帰れ!」と殴りつける丈吉の顔が苦痛にゆがむ。お浜の手には、血がべっとり付いた包丁が握られていた。

血まみれのお浜が逃げ込んだ先は、偶然にも狂四郎とお蘭のいる宿だった。お浜は「亭主を手に掛けたので、名乗って出る」と言う。お蘭は「死罪になる」と止めるが、お浜の決意は変わらない。じっと見ていた狂四郎は静かに言う。「同道してやろう」。

お蘭に着替えさせて貰ったお浜は、狂四郎に付き添われて番所へと向かう。問わず語りに身の上を話すお浜。何も言わずに聞いている狂四郎。陣屋の前にやってくる2人。「お世話を掛けました」そう言って陣屋に向かうお浜。ふと、なにかを感じて振り返る。狂四郎がじっと悲しい目で見つめていた。心打たれたお浜は、深々と一礼して陣屋に向かう。

唐丸籠に入れられて護送されるお浜。見物に来ていたミケーレが、お浜を見初める。仲介役の商人鳴海屋が浦和奉行に囁く。「あの女を解き放ってミケーレに差し出せば、新式銃はあなた様のものです」。

ミケーレが浦賀奉行に新式銃を売ったと金八から聞いた狂四郎は、一計を案じて金八に囁く。一方、ミケーレを見張っていたお蘭。「ラシャメンだ」という叫び声。そこには、値の張る着物を纏った女の姿があった。「お浜さん!」驚くお蘭。お浜は謎めいた微笑を浮かべミケーレに寄り沿う。金八の投げ文で浦賀奉行の動きを知った隼人隠密党は、新式銃を横浜へと運ぶ浦賀奉行一行を襲うために動き出す。

お浜を侍らせて祝杯を上げるミケーレと浦賀奉行。そこに狂四郎が現れる。「そんなにノンビリしていていいのか?薩摩が新式銃を奪おうとしている」と告げる。慌てて横浜へ向かう浦賀奉行とミケーレ。「行くか?」とお浜に問う狂四郎。首を横に振るお浜。「もう疲れました。せっかくお上が救ってくれたのだから、ラシャメンだって構やしません。ここで生きて行きます」。そう静かに答えるお浜。黙って見つめる狂四郎を見て微笑む。小さく頷いて立ち去る狂四郎。見送ったお浜は、手にしたグラスのワインを決意を込めて飲み干す。

待ち伏せした隼人隠密党は浦賀奉行とミケーレ一行を皆殺しにして、まんまと新式銃を奪う。そこに立ちはだかる狂四郎。秘術を繰り出す隼人隠密党を、円月殺法を振るってことごとく倒す。狂四郎は「銃を焼け」と金八に命じる。驚いたお蘭は、「新式銃は幕府に」と金八の前に立ち塞がる。狂四郎は言う。「新式銃がどちらの側の手に入っても、多くの人が傷ついたり死ぬことになる。燃やしてしまうのが一番だ。これが私のやり方だ」。燃え盛る新式銃を背に立ち去る狂四郎。

川沿いを西に向かう狂四郎。「ラシャメンだ」という旅人の声が聞こえる。下って来る小舟の中に紅毛人と華やかに笑うお浜。見つめる狂四郎に気付くお浜。小さく頷く狂四郎。笑顔で紅毛人に酌をするお浜、その吹っ切れた表情。岸を行く狂四郎と川を下って行くお浜が、何事も無かったようにすれ違う。

 

面白かった和久田正明の台本

 ストーリーの説明が長くなって申し訳ない。先ほども書いたように、この第2話に私の思い入れがあったためだ。まず和久田正明の台本だ。流され流されて絶望の淵に追い詰められた女が、運命のいたずらから土壇場で命を救われる。女はそれをバネに、開き直ってラシャメンとして胸を張って生きて行く。そのしたたかな生き様がいい。そしてその女から目を逸らさずに、ただ見つめ続ける狂四郎。なまじの安っぽい同情を掛けないのが潔い。その2人の「関わりの在り様」「心の交わり方」「生き様」が面白いと思った。

和久田正明は「斬り捨て御免!」シリーズ、「眠狂四郎」シリーズのメインライターのひとりとして活躍した、私よりも2歳上の若手脚本家だった。この頃、脚本家として油の乗っていた時期だ。私と組むことも多かった。彼は結構強情で、私が台本の打ち合わせで直しを要求しても、なかなか素直に直そうとしなかった。私の要求とは、必ず方向性をずらして書き直してくるのだ。
 だが、この第2話のような登場人物の生き方がテーマの題材では、通り一遍ではない展開や生き様の潔さを書き切って、面白い作品を提供してくれていた。1980年代後半になって時代劇ドラマが少なくなると、時代小説家に転身し、数々の人気シリーズを発表した。

 

范文雀のこと

そして、第2話のキャストだ。お浜を范文雀が演じることになった。実は范文雀の名を、私は広島での高校生の頃から知っていた。60年も前だ。私の同級生と駆け落ちした清心女学院の女性徒としてだ。真偽の程は定かではない。だが、噂としてそのような話が私の高校では流布していた。大学に入ってから、その女性徒・范文雀が女優としてデビューしたという噂も聞こえてきた。芸名ではなく、本名を使っていた。彼女は「サインはV」「アテンションプリーズ」などで、瞬く間にスターの座に駆け登った。

その後若くして寺尾聡と結婚し、一時引退したがすぐに離婚、女優復帰した。それ以後は様々な映画やテレビドラマ、さらには舞台にも活躍の場を広げてきた。私はそういった彼女の活躍を、何故か頭の片隅で意識し続けていた。若いころのギラギラした感じが薄れて、芯は強いがしっとりしたいい女優になったなと思っていた。時に范文雀34歳。

 

丈吉役は迷わず指名

 もう一人、キーになる登場人物があった。お浜の亭主丈吉だ。この男、金と博奕にだらしない。口は達者で、ヤクザの貸元も客も口先で丸め込んでしまう。「女は利用するもの」と割り切っているくせに、妙に優しかったり甘え上手なところがある。前半でお浜の手に掛かって死んでしまうが、お浜をドンドン奈落の底へ引きずり込んで行く、いわば狂言廻しの役柄だ。

狂四郎との立ち廻りもある。シャープな動きも必要だ。お浜と絡むシーンでは、ねっとりとした嫌らしさと色気も欲しい。お浜役の范文雀は歌舞伎座テレビ室のキャスティングだったが、この丈吉役は監督である私に任された。私は迷わず「高峰圭二」と言った。高峰圭二のことは2025年4月2日アップの第71回で書いたので参照して頂きたい。

 このような訳で、私は多分目いっぱい張り切って、この第2話に臨んだに違いない。

 

狙った長回し

 実は「眠狂四郎 円月殺法」と次回作の「眠狂四郎 無頼控」は、DVDで発売されている。このブログを書くに当たって、40年ぶりに第2話「女体いけにえ無情剣 神奈川・横浜村」のDVDを見た。そして思った。京都映画を出て東通企画の頃に撮った2時間ドラマなどに比べて、カットが長いのだ。俳優もキャメラも動かして長回しで撮っている。

当時の京都映画ではカットバックを多用する監督は、「芸が無い」とスタッフの間で評判が低かった。工藤栄一監督や石原興キャメラマンの影響が大きかったと思うが、登場人物やキャメラを動かして長回しをする演出が、高く評価されていたのだ。

第2話での長回しは、一つにはそういったことの影響でもあったのだろうが、それだけでは無かった。気に入った台本、そして片岡孝夫、氾文雀、高峰圭二というキャストを与えられて、私は必死に考えたに違いない。その結果、この作品はカットバックを多用するよりも、長回しの方がより濃密でしかも切ない雰囲気や俳優の持ち味が出せると思ったのだ。

事実、私が撮った第2話の長回しカットは、極めてシャープで緊迫感に溢れており、「どうやって撮ったのか?」というような仕掛けもあって、「無理やり長回し」という感じは全然なかった。藤井哲也(テッチャン)キャメラマンのキャメラワークと3人の俳優さんの入魂の演技のお陰だ。 

 次回は、第2話の中でも私やテッチャンが、特に力を入れたシーンについて書いてみたい。

 

       【Episode23To Be Continued   

 


※次回は2026年3月25日(水)に投稿予定です。




お知らせ

 スマホではこの後に、私が関知していない広告が掲載されるようです。目障りだと思われる方もおられると思います。お目にふれないようにスペースを作るため、般若心経を入れておきます。

摩訶般若波羅蜜多心経

観自在菩薩 行深般若波羅蜜多時 

照見五蘊皆空 度一切苦厄  舍利子 

色不異空 空不異色 色即是空 空即是色 

受想行識亦復如是  舍利子 是諸法空相 

不生不滅 不垢不浄 不増不減 

是故空中 無色 無受想行識 

無眼耳鼻舌身意 無色声香味触法 

無眼界 乃至無意識界  無無明 

亦無無明尽 乃至無老死 亦無老死尽 

無苦集滅道 無智亦無得 以無所得故 

菩提薩埵 依般若波羅蜜多故 

心無罣礙 無罣礙故 無有恐怖 

遠離一切顛倒夢想 究竟涅槃 

三世諸仏 依般若波羅蜜多故 

得阿耨多羅三藐三菩提  故知般若波羅蜜多 

是大神呪 是大明呪 是無上呪 是無等等呪 

能除一切苦 真実不虚  故説般若波羅蜜多呪 即説呪曰

羯諦羯諦 波羅羯諦 波羅僧羯諦 菩提薩婆訶


般若心経