【Episode13】
女スリ三姉妹シリーズ
その2
主役交代の舞台裏
「花吹雪女スリ三姉妹~みちのく絵図の秘密」の放送(1995年1月21日)後にとんでもないことが起こった。朝日放送(ABC)のTさんと主演・叶和貴子の事務所の社長がトラブってしまったのだ。社長は叶和貴子の母親だった。叶和貴子がそれまでの事務所から独立して新しい事務所を作り、母親が社長兼マネージャーに納まっていた。言わば素人マネージャーだったのだ。
それでイロイロあって、次回の「女スリ三姉妹」は主役交代となった。思いもかけぬ出来事だった。私たちが慌てて新しい主役を探しているうちに、ABCから提案があった。岡本夏生でどうだというのだ。彼女は1992年からABCの「新婚さんいらっしゃい」の司会をしていた。それが、その年の(1996年)3月をもって交代するらしかった。どうもその交代が急遽のことらしくて、その穴埋めというかお詫びにというか、その条件として「三姉妹」の主役案が浮上したらしい。
その時、東通企画サイドは藤原裕之さんもH氏も退社して、ドラマのプロデューサー(以下P)がいないという状態だった。抵抗する間も術もなくABCの他番組事情の穴埋めという形で岡本夏生が主役に決まった。続いて瀬川瑛子の名前がABCから出て来た。Y局長の発想だった。あの惚けた天然の感じが良いということだった。こうしてバラエティ色の強い二人が決まった。残る一人は絶対にちゃんとした俳優が必要だ。これは私が探して、中山忍に決めた。中山忍とはこの作品「桜吹雪美人三姉妹がいく」の後も、何本もの作品で出演してもらった。

「桜吹雪美人スリ三姉妹がいく」ロケスナップ。右から次女佳つ美役・岡本夏生、
2番目は筆者、3番目は長女佳な恵役・瀬川瑛子、4番目は三女佳りん役・中山忍。
ドラマの人材が枯渇していた東通企画
実は、このロケもシッチャカメッチャカだった。タイアップしたはずの秋保温泉のホテルの対応が滅茶苦茶だった。スタッフの部屋が確保できずに、添乗員用の宿泊施設に泊まったり、仙台市内のビジネスホテルに泊まったりと転々とする破目になった。
先ほどもふれたように、その頃の東通企画にはドラマのPがいない状態だった。藤原さんとH氏以外にも、1993年に東京支社を閉鎖した影響で東京のドラマスタッフがすべて退社してしまっていた。しかたなく私が動いた。すでに退社していた藤原裕之さんに契約Pとして入ってもらった。社内からもPを一人立てなければならない。そこで、ドラマが本職ではない高橋千秋(千秋さん)に無理やりプロデューサーを頼んだ。彼とは私が松竹芸能にいた頃、なけなしの持ち金を出し合って、立ち飲みの串カツ屋で安酒を酌み交わした仲だった。彼は、アシスタント・ディレクター(AD)時代にABCドラマを経験していた。その縁で、Y局長ともTさんとも親しかったのだ。
ドラマ制作に反対していた高橋千秋が、なぜPに?
だが後年になって直接彼に聞いたことだが、実はそのころ高橋千秋は「東通企画はドラマをやらない方が良い」という考えを持っていたそうだ。予算決算に関わらなかった私は知らなかったが、それまで制作してきたドラマは赤字続きだったのだ。それを東通企画の「顔」が必要ということで、制作を続けていたということだった。その頃は制作部長として経営にも携わっていた千秋さんの気持ちはよく分かる。
ではなぜ千秋さんはドラマプロデューサーを引き受けたのか?私は「何で?」と訊いた。彼は言った。「皆元ちゃんが監督する作品やからな。しゃーないやん」。マイッタ!彼は説を曲げて私のためにPを引き受けてくれたのだった。そのせいで、千秋さんには先ほど書いたような、モノ創りというよりはそれ以前のトラブル対応で、辛い目に遭わせてしまった。申し訳ない。
結局、「桜吹雪美人スリ三姉妹がいく」の制作体制は自社のドラマ専門のプロデューサー不在で、安定しなかった。すべてが中途半端なままで制作されたという感じだった。やはり制作母体がしっかりしないと作品的にも予算的にも上手くいかないと痛感した。視聴率も上がらず、「桜吹雪美人スリ三姉妹がいく」は1本だけでメンバー交代することになった。
松本明氏がプロデューサーに
そんな時、混乱していた東通企画自体も経営態勢を立て直すために、ABCと毎日放送(MBS)から首脳陣を受け入れることになった。社長にはMBSから岡崎巍さん、専務(後に副社長)にはABCから北條信之さん。私は二人とも以前から面識があった。岡崎さんは松竹芸能時代に「新・番頭はんと丁稚どん」でPDを務めたので、毎週のように合っていた。【Episode12】でも触れたが、岡崎さんの下でADの真似事をしていた関係だった。北條さんはABCで実力派のキャメラマンだったが、私がABC局内制作の「部長刑事」を監督している時は、美術部長としてお世話になった。その縁で、この後登場する松本明さんに「裸の大将」の監督として口を利いて貰っていた。
北條さんと土曜ワイドの制作体制を相談した。北條さんは松本明さんにプロデューサーを頼もうと言ってくれた。2人はABCのディレクターとキャメラマンとして長年の親しい付き合いだったのだ。松本さんと私とは京都映画時代に必殺シリーズの監督と助監督として、また先ほど触れた、「裸の大将」のPと監督としての付き合いがあった。当時はABCを定年退職していたが、局内に影響力は充分残っていた。実績といい、プロデューサーとしての力といい、願ってもない提案だった。
松本さんは快諾してくれた。ABCの了解も得た。もう一人のPは盟友上川栄がやってくれることになった。なんとABCのPは、「部長刑事」で私のADを務めていた内片輝が担当することになった。東通企画側のAPは、松本さんの東阪企画時代の部下で、「裸の大将」で助監督を務めてくれた内丸摂子が付いてくれることになった。まさに私としては万全の体制が整った。
主演・萬田久子で新三姉妹誕生
松本さんは早速、主役候補を提案してくれた。萬田久子だった。萬田さんは東通企画の専属になったその年に撮った、読売テレビ・松竹芸能制作木曜ゴールデンドラマ「神様がいのち戻してくれた」の主演だった。非常に楽しく撮影ができたので良い関係が作れていたと思う。これも、申し分のないキャスト案だった。ABCも文句なくOK。そして、次女役杉本彩さらに三女役辺見えみりも松本さんの関係でスンナリ決まった。

「花吹雪美人スリ三姉妹」嵐山ロケスナップ。右から次女月子役・杉本彩、2人目は
長女星江役・萬田久子、3人目は筆者、4人目は三女花代役・辺見えみり。
赤字体質が改善
もう一つ松本さんのお陰で好転したことがあった。技術と美術を松本さんが懇意にしていた小関進さんの関係でテレビ朝日関連会社のテイクシステムズが1千万ちょっとで引き受けてくれることになった。このことによって、長年赤字を続けていたドラマ制作が、赤字体質から脱却できた。
技術をテイクシステムズが引き受けてくれることで、制作拠点を東京に移すことにした。スタッフの半数以上が東京だった。それなら、私と上川Pそれにセカンド助監督1人(チーフとサードは東京)と美術の山崎博が東京に行けば済む(松本さんは東京にマンションを持っていた)。

「花吹雪美人スリ三姉妹~京都-伊東-伊良湖-琵琶湖に秘められた名曲の謎」完成記念写真。前列右から照明技師・板垣賢三、2人目は筆者、3人目は杉本彩、5人目は萬田久子、5人目は辺見えみり、2列目3人目はプロデューサー・上川栄、4人目は美術・山崎博、5人目はAP・内丸摂子、6人目はキャメラマン・栗林克夫。
新しいスタッフとの出会い
テイクシステムズのキャメラマンは「新宿ラブストーリー事件簿2」を担当した木村弘一を希望したが、すでに退社したとのことで栗林克夫(栗ちゃん)になった。初対面がロケハン集合場所の京都駅だった。30歳になるかどうかという若さだった。逢ってすぐの感じは「ちよっと生意気やな」。だが、京都市内を廻るうちに、すっかり打ち解けた。判断が速いし、自分の意見もしっかり言うタイプだった。私のやりたことを前提に意見を言ってくれた。ベースを置く場所や音のことなど技術的な条件もしっかり見て判断していた。何より、乗りがよかった。私のバカバカしいアイデアを面白がってくれた。それ以後、照明の板垣賢三さんや編集の末吉俊朗さんと共に、20年以上私の掛け替えのないスタッフとして支えて貰うことになった。
突き抜けたバカバカしさと荒唐無稽を追求
作品は以前にも増して、バカバカしさと荒唐無稽さを追求した。こういうテイストの作品は照れたり中途半端はだめだ。そういうマイナーな姿勢は視聴者に簡単に見透かされてしまう。シレッと徹底してやらなければいけない。突き抜けてしまうことが大切だ。そのためにはそれなりの舞台や設定や表現手段が欠かせない。バカバカしいほどのスケール。ありえない奇抜な設定。お祭り状態のテンション。「オッ」と思わせる背景。そこで繰り広げられる劇画的なアクション。
特に掏り取るシーンは劇画的な画を撮ることに拘った。本来なら精巧な合成技術を使うところを、敢えてバレバレの手作り合成カットにした。リアルさよりも突き抜けた面白さバカバカしさを目指した。
警察署内でのスリ替え
1話目のクライマックスは、スリにとっては鬼門といえる警察署内の刑事部屋が舞台だった。しかも、大勢の刑事たちに囲まれたド真ん中で、証拠品CD3枚のすり替えだ。まず、表向きは料理屋を営む三姉妹が、得意の料理を刑事たちに振る舞う。刑事部屋のテンションが最高潮になる。まさにその時、「幕」の杉本彩が吸い物をこぼしたり重箱をひっくり帰したりして大混乱を作る。そのスキに「真打ち」萬田久子がケースごとCDを飛ばして、物陰にいる「吸い取り」辺見えみりに渡す。えみりはCDの中身を偽物とすり替えて、萬田に投げ返す。そのCDが飛ぶ様子を劇画的に合成するのだ。小型のCCDカメラを使って、CDが狭い隙間を縫って飛ぶ軌道を撮影した。その移動画面に回転するCDを合成したのだ。
第九のティンパニーに合わせて風船破裂
2話目のクライマックスシーンは大津のオペラハウスを使った。びわ湖ホールだ。オーケストラが実際に演奏している映像を使わせて貰った。大ホールが満員の観客で埋まっているなかで、フルオーケストラがベートーベン交響曲第九番を演奏している場面だ。それをベースに、最前列に陣取る凶悪犯グループから、犯罪証拠となるDVDをスリ取るオペレーションを考えた。
第九番の第一楽章の半分を過ぎたあたりでティンパニーが打ち鳴らされる場面がある。それに合わせて客席に紛れ込んだ杉本彩が、犯人たちの足元で胡椒を入れた風船を爆発させるのだ。舞い上がった胡椒を吸い込んだ犯人たちは、盛大なクシャミを始める。それを会場係に変装した萬田久子が、介抱する振りをしてしてDVDを掏り取る。それを舞台袖にスタンバイした辺見えみり目掛けて放り投げる。DVDは舞台上の楽師たちが奏でるヴァイオリン・チェロ・コントラヴァスの間を遊泳して、えみりの手に収まるという段取りだ。
このコンテを作るのにはチョイと苦労した。第一楽章が始まる所から、ティンパニーが打ち鳴らされるまでに9分ぐらいある。その間に、オペレーションを準備する三姉妹の芝居、犯人側の芝居、指揮者が犯人の娘という設定なので指揮をする様子など、70カット余りをワンカットずつ秒数を計りながら組み立てなければならない。第1カットは5秒、第2カットは3秒、第3カットは2秒半……というぐあいに。それで風船が爆発するカットとティンパニーが打ち鳴らされる部分をきっちり合さなければならないのだ。撮影現場でも記録の松橋香織と「今のカットは2秒半、OKか?」と確認しながら進めていった。結果は計算通りに作りあげることができた。面倒臭い細かな計算が必要な演出だったが、その作業が意外と面白く感じられて、自分でも驚いた。
ジョーズ の背びれが砂風呂に出現?
三作目はクライマックスはホテルのパーティ会場だったが、それ以外にも遊べるシーンがあった。鹿児島県指宿の砂風呂を使ったシーンだ。凶悪なヤクザの一行が砂風呂にやってくる。首まで砂に埋まったターゲットの屈強なヤクザ隣に、萬田久子も同じ状態で並ぶ。ターゲットの首からぶら下げたプラスチックのカードを掏り取る設定だ。萬田久子の指が砂の中をターゲット目掛けて掘り進む。その地中の様子をCCDカメラを後退させながら撮るのだ。もっとバカバカしい撮り方はないかと考えた。そこで、横に倒した箱の中に砂を詰め、手前を透明なガラスで覆った。地中を指が掘り進む断面図だ。自分でも笑ったのは掏り取ったカードを引き寄せる際に、カードの三角形の角が砂の海を切り裂いて進むカットを思い付いた時だ。「ジョーズ」のサメの背ビレのイメージだ。音入れ作業でそこに「ジョーズ」のテーマ―曲を入れたのは言うまでもない。
スタッフも乗った 遊び
こういう私のバカバカしい発想や遊びに、スタッフも乗ってくれたのが何よりも嬉しかった。キャメラマンの栗ちゃんはそういう特殊な撮影が可能な様々な機材を用意してくれたり、撮り方のアイデアを色々と出してくれた。美術の山ちゃんはそういうカットが効果的に撮れる装置を作ってくれた。編集の末吉さんは時間や手間暇の掛かる面倒な合成を、嫌な顔もせずに面白がってやってくれた。台本作りもコンテ作りも現場もそして仕上げも楽しい仕事だった。
俳優さんたち
現場での楽しさと言えば、三姉妹の女優たちや暴力スリ役の八名信夫や美角優介たちとも楽しく仕事ができた。萬田さんはアクションは得意ではなかったが、私が考え付いた様々なアクションを嫌がらずに挑戦してくれた。OAを見た息子さんが「チャコちゃん、かっこいい」と言ってくれると喜んでいた。明るい性格なので彼女のお陰で現場は常に笑いに包まれていた。
彩ちゃんはメッポウ色っぽいが意外にサバサバした性格で、おっとりした喋り方が現場を和ませた。ダンスシーンは流石に唸らせるものがあった。
えみりはスタッフみんなに可愛がられた。役者ぶることもなく、誰とも友達感覚で接した。撮影の後始末も手伝ったりすることがあった。
こうして楽しく撮影できた「花吹雪美人スリ三姉妹」だったが、残念なことに3本で終了することになった。その経緯は【Episode11】 で書いた。しかし、萬田久子、杉本彩、辺見えみりとは、その後も作品を変えながら仕事を続けることになるのだ。「いま、『女スリ三姉妹』を作るとしたら、どんな作品になるのか?」と、時折考えることがある。
毎回ラストで三姉妹が視聴者に向かって言う決めゼリフがある。そのセリフでこのEpisodeの締めとしたい。
皆さま 懐中物には
くれぐれも ご用心!
【Episode13】 The End
あとがき
いつも登場する方々の名前に敬称をつけるかどうか迷ってしまう。「さん」付けをしたい人もいれば、「さん」を付けるとしっくりこない人もいる。友達や仲間や後輩に「さん」を付けると、とたんに距離感が出てきてしまうのだ。普段からニックネームで呼び合う仲の方々は、ニックネームで書く方がしっくりくる。迷った末に、私の感覚を重視することにした。その方がこのブログの雰囲気を正確に伝えることができると思うからだ。敬称を付けなかった方々にはこの場を借りて失礼をお詫びしたい。
※【Episode14】 は来週水曜日投稿予定
お知らせ
スマホではこの後に、私が関知していない広告が掲載されるようです。目障りだと思われる方もおられると思います。お目にふれないようにスペースを作るため、般若心経を入れておきます。
摩訶般若波羅蜜多心経
観自在菩薩 行深般若波羅蜜多時
照見五蘊皆空 度一切苦厄 舍利子
色不異空 空不異色 色即是空 空即是色
受想行識亦復如是 舍利子 是諸法空相
不生不滅 不垢不浄 不増不減
是故空中 無色 無受想行識
無眼耳鼻舌身意 無色声香味触法
無眼界 乃至無意識界 無無明
亦無無明尽 乃至無老死 亦無老死尽
無苦集滅道 無智亦無得 以無所得故
菩提薩埵 依般若波羅蜜多故
心無罣礙 無罣礙故 無有恐怖
遠離一切顛倒夢想 究竟涅槃
三世諸仏 依般若波羅蜜多故
得阿耨多羅三藐三菩提 故知般若波羅蜜多
是大神呪 是大明呪 是無上呪 是無等等呪
能除一切苦 真実不虚 故説般若波羅蜜多呪 即説呪曰
羯諦羯諦 波羅羯諦 波羅僧羯諦 菩提薩婆訶
般若心経
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