【Episode18】
助監督になるその後
──京都映画での日々
その4
「斬り抜ける」その後
1975年、「斬り抜ける」の後は「必殺必中仕事屋稼業」に途中から付いた。この作品については、すでに【Episode7】と【Episode9】でも触れた。この作品は必殺シリーズの中でも、「必殺仕置人」「必殺からくり人」に次いで私が好きな作品だ。やはりなんといっても、緒形拳さんの「知らぬ顔の半兵衛」がいい。その前に「人間の歌」シリーズにも出演していた林隆三も、屈折した男をイイ感じで演じていた。草笛光子や中尾ミエなどの女優陣も良い味を出していた。
監督も三隅研次、工藤栄一、松本明、大熊邦也、蔵原惟繕、松野宏軌と6人できっちり廻しているのがいい。脚本陣も前半は野上龍雄、村尾昭、国弘威雄などの実力者が書いている。
この作品からまたタイトルに「必殺」が付いた。ようやく、「必殺殺人事件」の影響から脱出できたということかもしれない。その証拠に第8話で最高視聴率34.2%(関西)を叩き出している。

「必殺必中仕事屋稼業」雪のロケスナップ。前列左が緒形拳、右が林隆三。後列左が都築一興、その右のハンチングが染川広義、その右が藤井哲也、右端が筆者。
ネット腸捻転解消
実はこの作品に付いている途中に面白ことがあった。ネットの腸捻転解消だ。それまでは新聞社とテレビ局の資本系列と、放送ネットが食い違っていたのだ。すなわち毎日新聞社が大株主であるTBSと朝日新聞が大株主の朝日放送(ABC)が番組のネットを組み、朝日新聞が大株主のNETテレビ(現・テレビ朝日)と毎日新聞が大株主の(毎日放送)が番組ネットを組んでいたのだ。一年前の1974年にこの腸捻転を解消することに合意したらしいが、その解消の日が、「必殺必中仕事屋稼業」第13話と第14話放送の間の1975年3月31日だった。
そこでABCは視聴者を繋ぎとめるために、第13話と第14話を前後編にした。それまで放送時間は土曜日の22時台だった。だが、その時間帯はNETは土曜洋画劇場を放送している。必殺シリーズは金曜日の22時台に移ることになった。テレビ番組にとって放送日が変わるのは痛いそうだ。視聴習慣は私たちの想像以上に大きいらしい。前後編にしたのはそのためだ。私はその前後編にも付いた。その時は「こんなことで効果があるのかな?」と思った。その心配は当たった。それまで30%前後あった視聴率が、13%台にまで下落した。当時他のドラマでも、「最終回は前後編で」という終わり方があったらしく、前後編にすることで番組終了と勘違いされたらしいのだ。
徹底的に「必殺」の真似をした「影同心」
この話はこれで終りではない。実はTBSも手を打っていた。それも結構エゲツナイ手を使って。Wikipediaによると、TBSは新しくネットを組むMBSに、土曜の22時台(「必殺シリーズ」を放送していた時間帯)に時代劇を作ることを依頼したらしい。それも「徹底的に必殺の真似をしてくれ」とまで言って。それが「影同心」だ。あれほど綺麗ごとを言って、「必殺シリーズ」を批判していたTBSの豹変ぶりには驚かされる。
だが、さすがに「金を貰ってワルを殺す」までは真似できなかった。だが、その「金を貰ってワルを殺す」=「アンチ・モラル」「アンチ・ヒーロー」が、「必殺の必殺たる所以」なのだ。「誰だお前は!?」と問われて、「オレか、オレはただのケチな人殺しよ」とうそぶく男たちの屈折した生き様が共感を呼ぶのだ。「影同心」はそれを真似することも超えるテーマを創り出すこともできなかった。「仏作って魂入れず」の最たるものかもしれない。
「影同心」は20%越えのヒット作となったが、続いて作った「影同心Ⅱ」は低迷し、2シリーズだけの放送となった。「影同心」に「必殺シリーズ」で活躍した工藤栄一監督や深作欣二監督が参加していたのは面白い。「オレはただのケチな活動屋よ」とうそぶきながら撮っていたのかもしれない。
一方、「必殺シリーズ」は、次回作で中村主水を復活させ視聴率を回復し、長期シリーズとなった。

「西陣の女」京都市内ロケスナップ。右から2番目が梶三和子、3人目が筆者。
4人目は武縄源太郎監督。
「西陣の女」に付く
さて、私は1975年春「必殺必中仕事屋稼業」を途中で離れて、都築一興(イッコウ)と一緒に「西陣の女」に付いた。フジテレビ・松竹制作の帯ドラマだ。原作は文豪水上勉。主演は梶三和子。共演は伊吹新吾(後に伊吹剛)、永田光男、古川ロック、平井昌一など。伊吹新吾は大映京都撮影所出身の俳優さんで、これ以後も何本も一緒に仕事をした。
奥信濃有明の繭農家に生まれた美しい少女が、京都西陣に奉公に上がる。織物職人と恋に落ちるが、やがて運命の波に翻弄されて行く。こんなドラマだったと思う。監督は長谷和夫、武縄源太郎、深田昭。キャメラは斎藤定次。
まず、信州ロケがあった。有明の東側の山から雪を戴いた北アルプスを撮ったり、安曇野の道祖神のある畑や大王わさび園などでロケをした。繭農家で養蚕の様子や、煮た繭から糸を採る作業なども芝居に絡めて撮った。
京都に帰ってからは、物語が戦後間もなくの話だったので、古い京都すなわち西陣の織物屋街の路地や雨宝院の土壁、嵯峨野の建仁寺塀沿いの道、紙屋川の織物工場などでロケをした。帯ドラは予算が少ない。仕方なくイッコウと私で内トラに出た話は【Episode15】で書いた。他の現場スタッフたちにも出演してもらったので、会社と交渉していくばくかの出演費を出してもらうようにした。

「西陣の女」西教寺ロケスナップ。昼食休憩中か?座っている左から4人目が都築一興、その右が記録杉山栄理子(現在・都築栄理子)
待遇改善を会社と交渉
ちなみにこの頃から、イッコウと助監督やスタッフの待遇改善のための交渉を制作部次長の小島(清文)さんとやり、いくつか勝ち取った。まずは資料費だ。時代劇が主流の撮影所なので、時代考証資料が必要だった。たしか、月に2万の資料費を獲得したと思う。それで、「江戸幕府役職集成」や「江戸物売り図説」他の図説類、辞書類などを揃えていった。
次は予告編手当だ。安いが1本2千円を獲得した。先ほどの内トラ手当もそうだ。
一旦、獲得したが京都映画に踏みにじられたものもある。撮休日だ。東映は組合があったので、日曜日は撮影しないとか様々な協定を結んでいた。だが、組合のない京都映画に決まった撮休日はなかった。1本撮影が終わると、放送までに余裕があれば、1日撮休日を作るという感じだ。これでは、家庭持ちは奥さんや子供とどこかに行く約束もできない。一人者はデートの約束もできない有様だった。
私とイッコウは京都映画と交渉し、月に1日(何日だったか忘れたが)定休日を作ることに合意した。数ヵ月は定休日は守られた。だが、ある月のその日、会社はいきなり俳優のスケジュールを理由に、定休日に撮影を入れると通告してきた。昼休憩にその話を聞いた私とイッコウは、京都映画幹部に抗議した。だが、京都映画は私たちの抗議を跳ね除けた。私たちは午後の撮影再開の放送を聞いても抗議を続け、現場に戻らなかった。現場は家喜さん一人で切り盛りするということになった。いつまでもそういった状況にしておくわけにはいかないので、現場放棄は2~3時間で終わった。それ以降、京都映画は定休日を破棄したままだった。
イッコウ干される
こうした行動が災いしたのか、イッコウは時々京都映画から仕事を干された。どういうわけか、同じ行動をしている私は仕事を干されるということがなかった。その頃は京都映画に私に特別目を掛けてくれる人はいなかったのにだ。
「カチンコを打ちません」
イッコウと私が少し違ったのは、監督やキャメラマンに対する態度だった。イッコウは華奢な外見に比べ、行動には峻烈なところがあった。監督やキャメラマンの理不尽な仕打ちには、不満や抗議の意思を隠さなかった。
例えば、M監督がNキャメラマンと相談して、「どこに入れるかわからないが、取り敢えず〇〇のアップを撮る」みたいなことを言ったことがあった。スタッフや俳優は仕方なく指示に従うが、イッコウは反発心を隠さなかった。本番前に録音部に次のカットのカットナンバーを送る際にこう言った。「送ります。ビー(録音部のブザー)。〇〇のアップ。どこに入るか分からないのでカチンコは打ちません」。本番。監督が「ヨーイ」と声を掛けるが、イッコウはカチンコを出さない。「(監督)スタート」。カチンコを打たなければどうにも間が取れない。仕方なく監督が「カチン」と口で言う。こういった場面を1度ならず見た。
監督に挨拶しない
T監督の場合はすれ違っても挨拶をしなかった。私は驚いて訊いた。「何で挨拶しないんや」。「頭に来たから挨拶せーへんねん」。その日、T監督が現場でなにか理不尽なことをしたらしい。「それでも、挨拶ぐらいせんと」と、軟弱な私。「ええねん」と毅然と言うイッコウ。男らしい!!そう思った……だか、その男らしさの報いは来た。T監督が製作部で言ったらしい。「挨拶しない助監督がいる。けしからん!」。
その結果イッコウは干された。すぐではなかったように思う。すぐなら私も仲間たちも抗議したはずだ。京都映画は嫌らしく、それからしばらくした微妙な組替えの時期に、スタッフから外された。イッコウは、ちょうど準備中の高林陽一監督の映画「金閣寺」にチーフで付いた。後でその作品でのことを色々話してくれた。良い経験だったのだろう。あまり良くないきっかけだったが、そういう意味では、イッコウは他の事業所で様々な作品や現場を経験することができたのかもしれない。
「必殺仕置屋稼業」に付く
「西陣の女」の後は「必殺仕置屋稼業」に数本付いた。AB班2班立てになったためだ。イッコウとは別の組に付いた。「必殺仕置屋稼業」は前作「必殺必中仕事屋稼業」がテレビ局ネットの腸捻転解消のあおりを受けて、視聴率が半分以下に低迷したのを立て直すのを目的に企画された作品だった。実質的な主役は前2作(「必殺仕置人」「暗闇仕留人」)で人気が出た中村主水=藤田まことだ。共演は「必殺仕置人」の沖雅也、新克利、渡辺篤史、中村玉緒などだ。
主役のタイトルが最後?
実質的な主役と書いたのは、トップタイトルが沖雅也でラストの留めタイトルが藤田まことになっているが、どうみても中村主水人気を当て込んだ企画だからだ。クレジットタイトル問題ではいろいろトラブルがあったらしいが、制作会社やテレビ局のプロデューサーがちゃんとしていれば防げることだ。
私が東映でアルバイトしていた時にみせられたのは、映画のタイトル帖だった。作品ごとに作られるもので、画面に出す俳優やスタッフのタイトルを1画面ごとに順番に記した帳面だ。私が驚いたのは、タイトルとは別に承認の印を押す役職名がズラリと並んでいたページだ。撮影所長、企画部長、企画次長、制作部長、製作次長、演技課長などなど。それらの役職者の印鑑が全部揃わないと、タイトルを発注できない厳しい仕組みだった。東映では「タイトルが1枚違ったら血の雨が降る」と言われていた。それほど、タイトルの順番や1枚タイトル(1画面に俳優さん1人だけの名前がクレジットされる)なのか2枚タイトル(1画面に2人の俳優の名前がクレジットされる)なのかが俳優にとっては重大問題だったのだ。
結局、留め位置の藤田まことのタイトルを特別扱いし、起こし(画面の下から起き上がりながら出てくる)だったかズームアップだったかで出すことで決着したらしい。私たちは放送を見てその異様さにビックリしたものだ。
「必殺仕置屋稼業」で第3ステージが火事になったことは【Episode10】で書いた。私たちの班は「必殺仕置屋稼業」を離れ、「宮本武蔵」に付いた。イッコウはそのまま「必殺仕置屋稼業」に残ったが、その後先ほど書いた「挨拶」の1件があり、「金閣寺」に付くことになるわけだ。私たちはしばらくは別々の作品に別れて活動することになる。
To Be Continued
※次回は来週水曜日(8月21日)投稿予定
お知らせ
スマホではこの後に、私が関知していない広告が掲載されるようです。目障りだと思われる方もおられると思います。お目にふれないようにスペースを作るため、般若心経を入れておきます。
摩訶般若波羅蜜多心経
観自在菩薩 行深般若波羅蜜多時
照見五蘊皆空 度一切苦厄 舍利子
色不異空 空不異色 色即是空 空即是色
受想行識亦復如是 舍利子 是諸法空相
不生不滅 不垢不浄 不増不減
是故空中 無色 無受想行識
無眼耳鼻舌身意 無色声香味触法
無眼界 乃至無意識界 無無明
亦無無明尽 乃至無老死 亦無老死尽
無苦集滅道 無智亦無得 以無所得故
菩提薩埵 依般若波羅蜜多故
心無罣礙 無罣礙故 無有恐怖
遠離一切顛倒夢想 究竟涅槃
三世諸仏 依般若波羅蜜多故
得阿耨多羅三藐三菩提 故知般若波羅蜜多
是大神呪 是大明呪 是無上呪 是無等等呪
能除一切苦 真実不虚 故説般若波羅蜜多呪 即説呪曰
羯諦羯諦 波羅羯諦 波羅僧羯諦 菩提薩婆訶
般若心経
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