Episode18
  助監督になるその後

      ──京都映画での日々

  その20

 

前号の続き

19799月、私はスタジオドラマの研修のため、大阪吹田市のMBS千里丘放送センターに通っていた。京都映画が経験したことのない、ビデオ収録スタジオドラマのノウハウを学ぶためだ。京都映画はその年の年末から始まる昼帯ドラマ「花かぶら」の撮影を控えていた。「花かぶら」はビデオによる、しかもマルチ方式(カメラを複数台使って、切り替えながら1シーンを一気に収録するシステム)での収録が条件だったのだ。MBSのスタジオではその時、昼帯ドラマ「遅咲きの梅」のマルチ収録を行っていた。ディレクター(D)は私の親しい友人伊東雄三だった。

 

スタジオドラマの進行・ドライリハーサル

「遅咲きの梅」収録はブロックドライリハーサルから始まることは前号で書いた。「ドライリハーサル(ドライ)」とは、撮影所でいえば「段取り」のようなものだ。俳優がカメラを通さずにディレクター(D)の指示のもとに芝居をしながら動いてみるのだ。その間、3人いるキャメラマンは自分のポジションから撮る画を探っていく。ちなみにスタジオでのカメラの配置は、セットに向かって左側が第1カメラ(1カメ)、中央が2カメ、右側が3カメとなっている。「遅咲きの梅」の場合はもう一台4カメがあった。引き画などの固定のカメラとして使うということもあったが、時には3人のカメラマンで4台のカメラを操るという離れ業を演じることもあった。チーフカメラマンは2カメだ。真ん中で、そのセットやそのシーンの雰囲気を決める引きの画やグループショット(GS)を担当するからだ。照明や音声などの他の技術部や、装飾・持ち道具などの美術部もドライを見て、それぞれに修正すべきところがあれば修正する。

 

同・カット割り、カメラ割り

ドライの後、カット割りやカメラ割りの打ち合わせをする。これはDの個性やテレビ局の習慣やそのチームの力関係によってやり方が異なる。MBS伊東Dの場合、カット割りは前もって出来ていた。カット割りのできているDはドライの最中に「パチン、パチン」と指を鳴らす。カットの変わり目をそれで指示しているのだ。「パチン」と鳴らすと、パッと両手を広げる。引き画ということだ。また「パチン」と鳴らして、両手を狭めて突き出すか片手で被写体の方を指さす。その方向のタイトなショットということだ。そのパフォーマンスは、まことにカッコイイ。若い連中がテレビのディレクターに憧れるわけだ。

ドライをやってみてそのカット割りに変更があればその場で修正し、無ければそのままのカット割りということになる。そのカット割りを元に、テクニカルディレクター(TD)もしくはチーフカメラマン(TC)が、どのカットを1カメ~4カメのどのカメラが撮るのかを、割り振っていくことになる。これがカメラ割りだ。

ちなみに伊東Dの場合、収録の2~3日前に行われる技術打ち合わせの段階で、すでにカット割りは出来ていた。その場で、俳優の動きや撮り方を細かく説明していた。私はずいぶん丁寧に打ち合わせをするものだと思った。撮影所では、事前の打ち合わせの段階でコンテの打ち合わせまではしない。前号で書いた、ドライでの装飾・持ち道具の見事な動きは、美術進行の平岡ちゃんが伊東Dの技術打ち合わせでの説明を聞いて、現場に反映していたからだ。

東京などでTDが力を持っているチームでは、Dの付けた俳優の動きを見て、TDがカット割りも決めるそうだ。撮影所に限らずこの業界は、力関係がすべてを決めるというわけだ。脱線するが、後年になって私がMBSの帯ドラマの監督を務めるようになってから、面白い現場を見た。

 

伝説の監督

私の大学の2年先輩がMBSのドラマ班にいた。青井邦臣さんだ。青井先輩は大学の映画研究部の出身だった。私は映研ではなかったのでタイトルも内容も知らないが、今でも語り継がれている名作を在学中に撮ったという。映研では伝説の監督だった。MBSに入ってからも、一貫してドラマ部で活躍しているチーフディレクターだった。

たまたま、私がMBSドラマ班の部屋に入ると、青井先輩が台本にセッセと書き込みをしていた。台本は完成したばかりで、まだロケ場所もセットデザインも決まっていなかった。台本の直しをしているのかと思って覗き込んだ。びっくりした。このセリフからこのセリフまでと線を引き、その上部の書き込みスペースに「LS」とか「2S」とか「<」「>」と書き込んでいた。「LS」とはルーズショットの略で引き画のことだ。「2S」はツーショット、「<」「>」は上手・下手の人物のワンショットのことだ。なんと、青井先輩はすでに、カット割りを進めていたのだ。

近くにいたアシスタントディレクター(AD)の中村和宏(カズ)にそっと訊いた。「ロケ場所もセットデザインも決まっていないのに、カット割りしてるの?」「青井さんはいつもそうですよ」。私は戸惑った。ロケ場所も決まらずセットデザインもできていないのに、カット割りができるものか?何をよりどころに、登場人物を配置し動かしているのか?カズはさらに言った。「私たちはそのカット割りを見て、カット割りが成立するような俳優の動きを考えるんです」。またびっくりした。俳優の動きもADに任せるのか?私のそれまでの常識では信じられない青井先輩の所業だった。これは手抜きではないのか?カズがニッコリして言った。「青井組は私たちADにとっては、しんどいけどヤリガイのある組ですよ」。カズの言葉にショックを受けた。私はこれまで、自分の仕事をちゃんとやろう、自分がしっかりしていればいい、そればっかりを考えていた。ところが、我が伝説の監督は、後輩を育てるのも独特の方法を編み出していたのだ。

その1~2週間後、スタジオで青井組のドライを見た。中村玉緒が主演の医療ドラマだった。チーフADのカズが現場を仕切っていた。青井先輩の了解をとりながら俳優を動かしていく。青井先輩が適所で指示をする。それなりに順調に進行していた。その時、カズが言った。「あー、ここ玉緒さんのアップでしたよね」。見ると、相手役が正面を向いて、中村玉緒は後ろ向きになっていた。そのままアップを撮ると、後ろにセットがない状態だった。ここで玉緒さんのアップを撮るなら、その少し前で相手役と入れ替わるか、2人が左右に開くような動きに変えなければならない。その時、青井先輩が言った。「玉緒ちゃん、セットが無いねん。何でもええからこっち向いて、このセリフを言うて」。!?!?!?

 

同・リハーサル、本番~俳優に背を向けるスタッフと「Q出し名人」

さて、「遅咲きの梅」だ。ドライの後、カメラを使ったカメラリハーサル(カメリハ)、ランスルーとリハーサル(リハ)を積み重ね、本番収録となる。リハや本番の時、スタジオにいるカメラや音声のブームを操らないスタッフは、ほとんどがモニターを見ている。スタジオに数台あるモニターには、スイッチングで切り替えられた映像が写し出されるのだが、ほとんどがセットに向けて設置してある。従って、スタッフは俳優さんに尻を向けてモニターを見ることになる。私はこの風景を見た時には違和感があった。スタッフが俳優さんに背を向けて本番を見るということは、撮影所ではありえないからだ。

ADはこのモニターを見ながら、途中で入って来る人物の「出」の合図や、画面外からの声掛けの合図を出す。スタジオ用語で「Qを振る」というのだが、これは簡単そうに見えて、芝居が分かっていなければナカナカ上手くいかない。俳優のクセや演技力を見極めなければできない芸当だ。「あんたのQでは出たくない」と言う俳優もいる。何故か女優に多い。「遅咲きの梅」に就いていたAD上川ちゃん(上川栄)は、自他ともに認める「Q出しの名人」だった。清川虹子など何人もの女優に気に入られて、「あんたのQじゃないと出たくない」と言われていたそうだ。

 

必殺のQ

Q」については、京都映画には飛んでもない話がある。「必殺シリーズ」を撮っていた、私の師匠ともいえる松本明さんだ。松本さんは当時あまり行儀がよろしくなかった。これは聞いた話だが、必殺シリーズではビールを飲みながら撮影したこともあったそうだ。セットの畳にゴロリと横たわって、ビールのグラスを片手に「ネーちゃん(若い女優のこと)、もっと気合いれて芝居せーや」とか「オッサン(若くない男優のこと)、もっとパパっといかんか」とか指示を出していた。そのカットは途中から、子分か何かが部屋に入ってくるという設定だったそうだ。撮影所は監督から見える場所に俳優がいれば、監督が「出のQ」を出す。本番になった。松本監督は寝転んだままだ。そのまま「よーい、ハイ」と声を掛けた。カチンコが鳴る。俳優が芝居を始める。松本監督の右手はアゴに当てられていた。左手はグラスを持ったままだ。どうやってQを出すのか?子分の出が近付いた。ヒョイと松本監督の左足が上がった。なんと、足でQを出したのだ。「必殺のQ」お粗末の一席!

 

収録の指揮所・副調整室

さてさて、「遅咲きの梅」だ。収録の指揮所は副調整室(サブ)と呼ばれた。電波を送出する主調整室(マスター)に対して、生番組撮影や収録を行うスタジオのコントロールルームをこう呼んだのだ。MBSの千里丘スタジオの場合、収録フロアからは階段で登った2階にあった。スタジオを見下ろす位置だ。

サブには各カメラの映像を映し出すモニターがズラリと並び、各種調整機器やコントロール盤が、所狭しと置かれていた。モニター群に面した最前列の真ん中にディレクター席があり、その右にテクニカルディレクター(TD)、左にタイムキーパー(TK)が座った。TDは技術全般をコントロール・指揮する役職だが、カメラを切り替えるスイッチャー(SW)も兼ねていた。TDの後ろには映像の明るさや色調をコントロールするビデオエンジニア(VE)の席があった。照明係や音声係(テレビ業界では録音部ではなく音声部と言った)はサブの左右に陣取り、ライトや音声の調整をしたり指示を出したりした。

ちなみにこの頃はまだ、ドラマの収録でもスタジオでは、「記録」ではなく「タイムキーパー」が就いていた。ビデオ収録の場合は、シーンを一連で撮ってしまうので、カットの繋がりを覚える必要が無かったのだ。また、繋がりが必要な事態になったとしても、録画した映像を巻き戻して見れば、繋がりを確認できた。仕事としては、撮ったシーンと未撮のシーンのタイムをコントロールできればよいというわけだ。

だが、「花かぶら」の撮影はMBSのスタジオのようにはいかない。京都映画のステージでは、カメラを4台も5台も使って、1シーンを一気に収録するというわけにはいかないのだ。ロケも多くなる。TKではなく記録でなければ難しい。ビデオ収録に慣れた記録がいるだろうか?

 

神業のように指示を出すDTD

先ほども書いたが、サブではDTDの前には、それぞれのカメラで撮られた映像を映し出すモニターがズラリと並んでいる。5台のカメラを使っていれば、5台のモニターにそれぞれ違う画が写っているわけだ。その中央手前にはスイッチングされた映像のモニターもある。リハや本番中、DTDは瞬時にそれぞれのモニターを見て素早く指示を出す。「1カメ、もっと寄って」「3カメ、1カメとサイズを合わせろ」「4カメ、もっと右に回り込め」などなど。まさしく「神業だ」と思った。慣れてるとは言え、カメラ一台だけ、しかもモニターなどどこにもない撮影所の現場しか経験のない私には、信じられない能力だった。

 

緊張するスイッチング

20年後には私も、MBSやABCでスタジオドラマを撮ることになるのだが、なかなか5台ものモニターを、瞬時にチェックすることはできなかった。Dをやり始めてしばらくは、リハや本番中にどうしてもスイッチングされた映像の写る、真ん中のモニターしか見ることができなかった。中央のモニターだけを必死に見てTDにスイッチングの合図(Q)を出した。それでも、基本的に自分がカット割りした通りに進行していくので、あまり支障はなかった。サイズやアングルに問題があれば、カメリハやランスルーの後に手直しを指示すればいいのだ(と自分では思っているが、周囲に迷惑を掛けたかもしれない)。だが、リハや本番の間は緊張の連続だった。1台のカメラでの撮影ではこんなに緊張することはない。

時たまだが、スイッチャーが本番中に突然振って来ることがあった。「3と5どっちかいいい?」。慌てて3と5のモニターを見る。カメラ割りでは3カメだった。安定した画角だ。5カメはローアングルだ。トリッキーだが面白い!「え!?え~、5!!」。そういう瞬間も面白いのだが、慣れない作業で緊張の日々だった。一週間後、掛かり付けの医院に行った。医師が私の脈を執って、言った。「脈がおかしいですね」。不整脈だった。

 

社員と業者スタッフの仲が良いMBS

さてさてさて、「遅咲きの梅」だ。以上のようにスタジオでは、各部責任者のいるサブと助手が働くフロアとに別れる。サブからの責任者の指示は、インカムを通してフロアの助手に伝えられる。俳優への指示もDがフロアに降りてこないで、インカムで言ったことをADが伝える場合もある。私はサブとフロアを行ったり来たりしながら見ていた。だから感じたのだが、悪くするとサブとフロアの対立というマズイ事態が起こる危険性があると思った。これもノートに記録しておこう。

だが、基本的にはMBSのドラマチームは仲が良かった。各部の責任者やチーフはMBSの社員で、助手は関連会社や業者という構成だったが、現場での変な差別はなく、結構言いたいことを言い、ため口を叩きあっていた。モノ作りの仲間という感じだった。その点、後に東通企画に行って分かったのだが、同じ大阪のテレビ局でも朝日放送(ABC)は、少し違った。局員と関連会社や下請け業者の立場の違いが、もう少しはっきりしていたような気がする。テレビ局の風土の違いというものはあるものだと思った。

 

厨房酒場

MBSのドラマスタッフの仲が良い原因の一つが、厨房での飲み会だった。夜中でも収録が終わると、後始末を終えたスタッフが装飾部の厨房に集まって来る。なぜ装飾部に厨房があるかと言えば、昼の帯ドラマには食事のシーンが付き物だからだ。家族の話が多いので、どうしても食事の場面が多くなる。そういうシーンの料理(消えもの)を装飾部の厨房で作るのだ。MBSドラマの「消えもの」のおいしさは、俳優さんの間でも有名だった。その時の「消えもの」担当は、高津商会の坂内君だった。仕事終わりの厨房は、撮影の残り物(と称していた)の「消えもの」と俳優さんの差し入れのビールがフンダンにあった。そこで、社員も下請けの助手も同じ「消えもの」を食べ、同じ酒を飲んで、その日の撮影について語り合うのだ。酔ってくると段々と遠慮がなくなってくる。垣根が取り払われる。そういう場が毎晩あるのが、MBSドラマチームの仲の良い秘訣だと思った。

 

凄まじい収録スケジュール

 それにしても、テレビ局のドラマ収録のスケジュールは、凄まじかった。スケジュール表には、びっしりと1日数拾シーンの収録予定タイムが書いてあった。1シーンの収録時間が10分・15分というものまである。そういったスケジュールをこなすためのポイントは、美術進行の存在だと改めて私は思った。

                                 To Be Continued 

 ※来週水曜日12月11日は投稿をお休みさせて頂きます。

 次回投稿は12月18日(水曜日)です。



お知らせ

 スマホではこの後に、私が関知していない広告が掲載されるようです。目障りだと思われる方もおられると思います。お目にふれないようにスペースを作るため、般若心経を入れておきます。

摩訶般若波羅蜜多心経

観自在菩薩 行深般若波羅蜜多時 

照見五蘊皆空 度一切苦厄  舍利子 

色不異空 空不異色 色即是空 空即是色 

受想行識亦復如是  舍利子 是諸法空相 

不生不滅 不垢不浄 不増不減 

是故空中 無色 無受想行識 

無眼耳鼻舌身意 無色声香味触法 

無眼界 乃至無意識界  無無明 

亦無無明尽 乃至無老死 亦無老死尽 

無苦集滅道 無智亦無得 以無所得故 

菩提薩埵 依般若波羅蜜多故 

心無罣礙 無罣礙故 無有恐怖 

遠離一切顛倒夢想 究竟涅槃 

三世諸仏 依般若波羅蜜多故 

得阿耨多羅三藐三菩提  故知般若波羅蜜多 

是大神呪 是大明呪 是無上呪 是無等等呪 

能除一切苦 真実不虚  故説般若波羅蜜多呪 即説呪曰

羯諦羯諦 波羅羯諦 波羅僧羯諦 菩提薩婆訶

般若心経