Episode22
 京都映画での監督稼業

    ──まだまだ続く二足の草鞋

その4

 

前回の続き

 1982年前半。「斬り捨て御免!Ⅲ」での私の監督作品は、5本目になっていた。第10話「怪盗を追え 死のおとり作戦」だ。脚本は鈴木生朗。この話は、関大助(長門勇)平野与四郎(伊庭剛)が活躍する作品だった。あらすじはこうだ。

 

「怪盗を追え 死のおとり作戦」あらすじ

 江戸市中の札差や両替商が立て続けに盗賊に襲われる。「翁の御前」配下庄兵衛一味による、金融の混乱を狙った犯行だった。目標は十万両。だが、一味の腕利きの錠前師源三が博奕場の手入れで御用になった。

その事実を知った花房出雲(中村吉右衛門)は、一計を案じる。源三が入れられた小伝馬町の牢に、無宿人を装った大助を潜り込ませたのだ。大助は言葉巧みに源三に近付き、脱獄を持ちかける。一方庄兵衛は、翁の御前の前で幹部お弓に源三の口封じを命じられる。

大助が持ち込んだ秘薬の効力で、疱瘡を騙った大助と源三は病人溜まりへ移送されることになる。その道中、庄兵衛の手下が源三の命を狙うが、出雲によって阻止される。大助は隙を見て源三と共に逃亡。逃走用の衣服を隠した辻堂に案内する。源三は大助の首を絞め衣服を奪い逃げる。隠れていた与四郎と大助は源三の後を付ける。

見世物小屋の楽屋口に入っていく源三。大助と与四郎は一味の隠れ家と見て見張る。源三を見て庄兵衛は驚くが、一味を集めて今夜の仕事を命じる。与四郎は出て来た庄兵衛の後を付ける。楽屋に忍び込んだ大助は、血を吐いてのたうち廻る源三を発見。庄兵衛に毒を盛られたのだ。「今夜、九つ、呉服橋」と言って息絶える源三。押し込む店の名前は分からない。一方、庄兵衛は料理屋でお弓の指示を受けていた。「今夜の最後のお勤めが済んだら、盗んだ十万両を沖合の船に移すように」。庭先に潜む与四郎は話の内容が聞き取れない。

出雲と大助は九つに呉服橋に向かう。与四郎は黒装束となった庄兵衛一味を追跡する。呉服橋の商家を襲う庄兵衛一味。与四郎は見張りを片付けて一味に成りすまし、打ち上げ花火で出雲たちに知らせる。庄兵衛一味は盗んだ千両箱を大八車に乗せて突っ走る。出雲と大助は、与四郎の残した目印を頼りに後を追う。小舟に乗り込んで沖に向かう庄兵衛一味。海底に隠した千両箱の山を回収し始める。与四郎と合流する出雲と大助。与四郎がフンドシ姿で海中に潜り、引き上げ作業をする一味を倒す。出雲と大助は船で密かに近づき、庄兵衛一味全員を倒す。盗まれた十万両は無事に回収できた。

 

「ピラニア軍団」VS「悪役商会」

あらすじを読んで頂いて分かるように、この第10話には重要な被害者役は出て来ない。三十六番所と翁の御前側とが、余人を交えずにがっぷり四つに組む話だ。従って翁の御前側の、魅力的なワルに活躍してもらわなければ話にならない。そのワルとは、錠前破りのスぺシャリスト源三と盗賊団の首領庄兵衛だ。源三役は当時話題になっていた「ピラニア軍団」の成瀬正。庄兵衛役には後に「悪役商会」を作る八名信夫がキャスティングされた。

 

「ピラニア軍団」成瀬正

「ピラ二ア軍団」は1975年に結成された、東映の大部屋やニューフェイス出身者らの俳優集団だった。メンバーは室田日出男、川谷拓三、片桐竜次、志賀勝、小林稔侍など。いずれも一度見たら忘れられない、アクの強い俳優たちばかりだ。東映の任侠映画や「仁義なき戦い」などの実録映画、「柳生一族の陰謀」などの時代劇で活躍していたバイプレイヤーたちだ。あまりガラが良いとは言えない東映専属の俳優さんたちの中でも、際立って強面の連中だ。酒癖が悪すぎて、新年会や忘年会に呼ばれなかった連中が集まって作ったのが切っ掛けというエピソードがあるぐらいだ。またその名も悪役や敵役専門の役者が、主役を食うのを夢見て「ピラニア」と名付けたというから、相当に獰猛な俳優たちに違いない。
 成瀬正はそのピラニア軍団の一員だった。一筋縄でいくはずがない。それに対してこちらは、監督になって2年目という駆け出しだ。だが、京都映画の監督が東映の俳優に舐められるわけにはいかない。決死の覚悟を決めて臨んだ。

意外!なんでや?ほう

最初は衣装合わせだった。クランクイン前日、衣装部で助監督と待っていると、成瀬正がやって来た。画面で見るより2枚目だ。「成瀬です。宜しくお願いします」とキッチリ挨拶をした。「やや、意外と礼儀正しいではないか」と、私は心の中で驚いた。衣装合わせは何事もなく終わった。ま、衣装は黒装束と着流しだから、揉めようにも揉めようがない。だが、私は自らの油断を戒めた。「気を抜くなよ。相手はピラニアだぞ。現場では鋭い歯を剝きだすに違いない」。

翌朝の撮影現場。成瀬が出ている盗みのシーンだ。私は緊張気味にそのシーンの段取りを説明する。成瀬は何も言ってこない。「なんでや?」なにか肩透かしを食ったような……。テスト。成瀬が錠前破りをする芝居だ。私の指示通りに演じる。だが、私が考えた手順よりも手際がいい。「ほう」と思った。本番。「よーい」と私が叫ぶ。成瀬の雰囲気がスッと変わった。「スタート!」。成瀬が演技を始める。テストよりもかなりネチッコイ表情になる。偏執的錠前破りピッタリだ。

「いってしまってる」

続いて犯行を発見した手代の首を絞めるシーン。これも、私が説明した段取り通りに演じた。本番。また雰囲気が変わった。「スタート!」。首を絞める時の表情が普通ではなかった。完全に「行ってしまってる」顔なのだ。夢中になると後先考えなくなるという源三のキャラクターを、見事に表現する演技だった。成瀬正は、私のプラン通りに演じながら、常にそれ以上の芝居を見せてくれた。なんだかワクワクしてきた。

強面だけではない

長門勇演じる大助との小伝馬町牢内のシーンでは、別の面も見せてくれた。このシーンは源三が大助にまんまと騙される設定だ。従って鋭すぎる表情は、大助の芝居と噛み合わないので、避けたいところだ。もしギラつく演技をするようなら、注意しようと思っていた。だが成瀬は、私がいう前にちゃんと抑えた芝居をしてくれた。それだけではない。ややとぼけた表情すら見せてくれた。その場面その場面での計算された的確な演技だった。だがここまでは、メインキャストを食ってやろうというピラニア的な芝居は見られなかった。私はやや意外な気がしていた。ピラニアは何処へ行った?

遂に噛み付いたピラニア

最後は芝居小屋の楽屋のセットだった。大助が駆けつけると、源三が毒を盛られて血を吐いている。苦しみながらも、大助の問に途切れ途切れに応えるという設定だ。成瀬に「動いていいですか?」と問われた。私はこういう提案は大好きなので、即座に答えた。「OK!好きに動いて。ただ最後に息絶えるのはここでこういう姿勢で」。軽い段取りだけやった。成瀬の動きを見て、手前に文机を置いてそれに顔を載せるように成瀬に指示した。表情をよく見せるためだ。「本番!」。成瀬の表情に気合が入った。「よーい、スタート!」。いきなりスゴイ声で苦しみ出した。長門勇が飛び込むと、「ブワッ」と口から血糊を吹き出し、楽屋中を転がり廻って苦しむ。長門勇は必死に追いかけて「次の盗みは何時だ?」と問い掛ける。成瀬は息絶え絶えに応える。「場所は?」。今度は跳ね上がって苦しむ成瀬。「ご、呉服橋……」。断末魔の苦しみのあと、決めた場所でキッチリ息絶えた。悪役源三の壮絶な死に様を見せてくれた、凄まじい演技だった。相手役の長門勇がかすむほどの熱演ぶりだった。多分成瀬は台本を読んだ時に、「このシーンは頂き」と演技プランを練っていたに違いない。ピラニアらしく最後に鋭い歯でメインキャストに噛み付いてくれた。

ピラニア軍団──この素晴らしい演技集団

「ピラニア軍団」。彼らの芝居に対する執念は凄まじいものがあった。正直言うと、実は私はこういう役者が大好きだったのだ。初監督作品「赤い稲妻」での小林稔侍もピラニア軍団に参加していたが、やはりこんな根性のある役者だった。恥ずかしそうに「こうやっていいですかね?」とよく聞いて来た。その後、その表情とは裏腹な凄みのある演技をしてくれるのだ。彼らは悪役・敵役らしく、死ぬ場面に異常な情熱を傾ける傾向にあるが、彼らは凄みのあるそういった演技ばかりが得意というわけではない。的確なリアクションやコミカルな役柄もキッチリこなしてくれる。この後も私は「ピラニア軍団」のメンバー何人かと仕事をした。私にとって、得難いバイプレイヤー集団だった。

 

悪役商会」八名信夫

庄兵衛役の八名信夫も面白い役者だった。なんと彼は、プロ野球選手として東映フライヤーズに入団したという驚くべき経歴を持つ。1972年まで存続した東映フライヤーズ(現・日本ハムファイターズ)は、東映映画が所有するれっきとしたプロ野球球団だったのだ。「カツ!」「アッパレ!」の張本勲も東映フライヤーズの選手だった。ちなみに、松竹は「松竹ロビンス」、大映は「大映スターズ」などのプロ野球球団を所有していた。残念ながら3球団すべて、日本映画の衰退とともに姿を消している。

八名信夫は3年間東映フライヤーズにいたが、ケガでプロ野球選手をあきらめ、親会社東映の勧めで俳優になったという変わり種だ。いかつい顔と大きな体を生かした迫力のある演技で、任侠映画などで悪役敵役を中心に活躍した。後年、私とは「花吹雪美人スリ三姉妹」シリーズで何本も一緒に仕事するようになるが、「斬り捨て御免!Ⅲ」第10話でも、いろいろと熱心に工夫してくれた。カツラの鬢に白髪を入れて凄みを出すなどは、彼のアイデアだった。彼と成瀬正の存在感のお陰で、ゲストスターはいなくてもこの第10話は、なんとか見れる作品になった。八名信夫はこの一年後に悪役敵役仲間を集めて「悪役商会」を結成する。彼については「花吹雪シーリーズ」の時に詳しく触れたい。

 

宍戸大全アクショングループ

この第10話ではアクションと盗みの手口に力を入れた。盗賊一味の話なので、商家への忍び込み方も見所のひとつにしたかったのだ。それで、一味のメンバーにスタントの宍戸大全グループから森山君や前川君、スタントAを入れた。彼らは普段は吹替で出演してもらうことが多いが、今回は役としてそのまま出演してもらった。冒頭のシーンでは、彼らを使って店の外から大屋根まで、一気に駆け上がるアクションを1カットで撮った。まず大八車を足場に、森山君とスタントAとで女性の前川君を1階の屋根に放りあげる。続いてスタントAを足場にした森山君を前川君が引っ張り上げる。スタントBも前川・森山で引っ張り上げる。1階から2階の屋根へはこれを素早く繰り返す。こうやって瞬く間に大屋根まで登ってしまうのだ。天井裏から室内への侵入も、ロープを使ってスルスルと降りてくる。これもカットを割らずに、鮮やかに撮れた。

 

錠前破り

錠前破りも見所にしようと思い、装飾部に頑張ってもらった。江戸時代の錠前の鍵は、鉄の棒に突起物が二つ付いている。鍵を錠に差し込み、その二つの突起物の隙間でシリンダーのバネを挟み込む。鍵を捻ることでバネを狭めてシリンダーをスライドさせて開錠するわけだ。時代考証的には見たことはないが、その突起物を嵌め替える設定にした。

まず盗賊たちが蔵の前に到着すると、錠前師の源三が錠前を確かめて、懐から道具袋を取り出す。バラッと広げると、ズラリと錠前破りの道具が入っている。その中の鉄棒の1本を選んで取り出す。次に様々な形状の突起物の中から、「これは」と思うものを選び出して棒に嵌め込んでいく。そして、それを錠に差し込んで動かし、錠内部の引っ掛かり具合を確かめる。その舌なめずりをしながらの、源三の密やかな指先の動き。思わず「白い指の戯れ」という日活映画のタイトルを思いだした。鍵を引き出し、引っ掛かった部分にヤスリを掛けて形を合わせる。そしてその鍵を錠前に差し込んで、壊れ物を触るような手つきでゆっくり廻していく。「ガチャリ」開錠の音だ。ニンマリと笑う源三。この一連の芝居を、成瀬正が偏執狂ぎみの演技で見せ切ってくれた。

 

与四郎の水中立ち廻り

もう一つのこの作品の売り物は水中での立ち回りだった。盗賊一味が石川島沖に船を止め、海中に隠した千両箱の山を引き上げようとする。それを防ぐために与四郎が海中に潜り、海中作業をする一味の前川君と水中での死闘を演じるという場面だ。水中のシーンは岡崎にある踏水会プールで撮影した。このプールは水中を覘ける窓が横についていた。プールの底に千両箱を積み上げて、そのそばで2人の水中アクションを撮った。壁面を消すために、プールの照明を全部切って、千両箱周辺だけをライティングで浮かび上がらせた。

さて、水中でのアクションだ。前川君はスタントウーマンなので問題なかった。問題は与四郎だ。与四郎役の伊庭剛は、「斬り捨て御免!Ⅲ」でレギュラーに抜擢された東映の若手俳優だ。アクションや立ち回りが得意とは言え、スタントマンではない。普通ならアクション部分は広いサイズでスタントマンの吹替を使って撮り、寄りの部分だけ本人で撮るという段取りだ。だが、そんなまどろこしい撮り方はしたくなかった。適切なサイズで本人で撮りたかった。どうする?私も少し狡さを覚えてきていたようだ。「吹替を使おうか?」と伊庭剛を挑発してみた。若手俳優のやる気を呼び起こすには挑発が有効だ。伊庭剛は即座に言った。「やります。やらして下さい」。
 水中でのアクションは、普通に潜るよりも遥に体力を使う。万一のために、森山君やスタントマンAを配置して撮影に臨んだ。撮影は
1カットがかなり長いし、それが数カットある。音を上げるかと思ったが、伊庭剛は最後まで頑張って見事に演じ切ってくれた。これ以降、伊庭剛とは急速に仲良くなった。

 

       【Episode22To Be Continued   

 

※次回は来週水曜日(2025年4月16日)に投稿予定



お知らせ

 スマホではこの後に、私が関知していない広告が掲載されるようです。目障りだと思われる方もおられると思います。お目にふれないようにスペースを作るため、般若心経を入れておきます。

摩訶般若波羅蜜多心経

観自在菩薩 行深般若波羅蜜多時 

照見五蘊皆空 度一切苦厄  舍利子 

色不異空 空不異色 色即是空 空即是色 

受想行識亦復如是  舍利子 是諸法空相 

不生不滅 不垢不浄 不増不減 

是故空中 無色 無受想行識 

無眼耳鼻舌身意 無色声香味触法 

無眼界 乃至無意識界  無無明 

亦無無明尽 乃至無老死 亦無老死尽 

無苦集滅道 無智亦無得 以無所得故 

菩提薩埵 依般若波羅蜜多故 

心無罣礙 無罣礙故 無有恐怖 

遠離一切顛倒夢想 究竟涅槃 

三世諸仏 依般若波羅蜜多故 

得阿耨多羅三藐三菩提  故知般若波羅蜜多 

是大神呪 是大明呪 是無上呪 是無等等呪 

能除一切苦 真実不虚  故説般若波羅蜜多呪 即説呪曰

羯諦羯諦 波羅羯諦 波羅僧羯諦 菩提薩婆訶

般若心経